やっと離れた唇で……


「どうして?」

 と、呟いた。


「三年前に、初めて見た時から、湖波の事、ずっと忘れられなかった…… 湖波に認めてもられる男になりたいって思っていた。湖波じゃなきゃ、ダメなんだ……」


 副社長がぎゅうっ、と私を抱きしめた。副社長の胸の中で、このまま崩れそうになる。

 でも……


「なんで、私なんか……」


「湖波がいい……」


「でも、停電の時、なんで……」


「ごめん…… 怒ってる? どうしても一緒に居たかったんだ」


「そんな事をしなくても、副社長なら、もっとスマートに女性を口説いて来たんしゃないんですか?」


「それが…… 湖波を目の前にすると、どうしていいいか分からなくなる……」


「だからって、今日だって無理矢理じゃないですか?」


「そう? 焼き肉、嫌だった?」


 副社長は、困った顔で私を見る。

 ちょっと可愛い……
 
 などと思ってしまった。



「嫌じゃないです。美味しかったし……」


「なら。良かった」

 副社長は、私のおでこに、自分のおでこをくっつけた。


 私の顔は、か―っと、熱くなった。


 副社長は、私の顎をグイっと上げると、また、唇を重ねた。


 副社長の手が背中に回り、優しく撫でるように摩っていた手が、ワンピースのファスナーを器用に下ろした。


「ちょっ…… ちょっと……」


 私は、両手で社長の胸を押しやると、肩から落ちそうになったワンピースを慌てて両手で押さえた。


 慌てて、ソファーの上に置かれて着替えを手に走った。



 知らない家だが、お風呂場らしき場所に入ると、ドアを閉め大きく息をついた。

 いったい、どうなっているのだろう? 

 頭がついていかない…… 


 でも、副社長の手の温もりに、頬や背中を熱く包まれたままだ……


 すると……


「ごめん…… 湖波…… シャワー浴びたらゆっくり話そう……」


 副社長の少し申し訳なさそうな声が聞こえた……


「……」


 私は、何も答えずに、ワンピースを脱いだ……