「副社長…… 私、やっぱり失礼します……」


「どうして?」

 副社長は、眉間に皺をよせ、怪訝な声を出した。


「焼き肉の匂が…… せっかくのお部屋に……」


 私は、もぞもぞと玄関へ下がって行った。



 すると、副社長が後を追うように近付いて来た。



「気になるなら、先にシャワー浴びていいよ……」


 副社長は、すました顔で言った。


「えっ。全然意味分かりません。だいたい何故、私はここにいるのでしょうか?」


「俺が、引っ張って来たから……」


 副社長は、当たり前のように言う。


「そりゃ、その通りですけど……」

 何をどう、言っても話が伝わらない……


「シャワー浴びておいでよ。俺の着替え貸すからさ…… ワンピースはすぐクリーニング頼めば、朝一で仕上がるから」


 副社長は、そう言って奥の部屋へと入っていってしまった。

 クリーニングって? 

 ここは、ホテルか?


 そんな問題ではない!

 副社長が着替えを手に戻ってきた。


「あの…… どうして、副社長のマンションで、シャワーを浴びるのでしょうか?」


「だから、焼き肉臭いって言ったのは、湖波だろ?」


「でも、普通、男性のマンションでシャワーなんて浴びませんから!」


 副社長はじっと私の目を見つめると。

 ふっと顏を近づけてきた。


「俺、言ってなかった? 湖波の事、好きだから」


「……」

 私は、言葉が出ず目を見開いた。


 副社長の手が、私の頭をグッと掴むと、唇が重なった。


 何度も角度を変え、深く重なって行き、体に力が入らない……


「あっ……」

 思わず、声が漏れてしまう。