『今日、佳菜子ちゃんと話をした。おなかの子の相手はどんな人なの?と聞いてみても、彼女はうつむくばかりで何も言わなかった。
相手はこのことを知っているの?と聞いても同じだった。
あなたを責めているんじゃないの、私はあなたの味方よ、だから教えてと一生懸命伝えたけれど、だめだった。
ただ、「どうするつもり?」という質問にだけは、「産む」とはっきりと答えたので驚いた。
子供を産んで育てるなんて高校生のあなたにはとても大変なことよ、私を見ていてもわかるでしょう。
そう諭したけれど、彼女の決意は変わらなかった。
相手のことは言わない、けれど絶対に産む。
あの子がそこまで心を決めているなら……私は彼女の抱える事情をこれ以上詮索するのはやめることにしようと思う。
現実的なことについてはまた話し合わなければいけないけど、そこでどんな結論が出るとしても、私は義姉として責任をもってあの子の力になってあげたい』


母は最初に決めたとおり、その後おなかの子の父親について詮索することはなかった。

家族でどういう話し合いがあったのかは詳しく書かれていないけれど、祖母と父も佳菜子が子供を産んでこの家で育てていくことを認め、
時が流れて「あざみのイトコになる女の子が産まれた」。



……ああ、ここでもやっぱり日菜子の父親が誰なのかわからない。

がっかりしかけ、けれどその下の文章を見つけて、心が少しだけあたたかくなる。



『佳菜子ちゃんと私と雅史さんの三人で頭を悩ませて、赤ちゃんの名前は「日菜子」に決まった。
ヒナちゃん、とさっそく娘に呼びかける佳菜子ちゃんは、もうすっかりお母さんの顔をしていた』





シャン、シャン、シャン、シャン。



離れから、今夜も鈴の音が響いていた。