祖母の部屋は母屋の一番奥にあった。

遺品はすでにほとんど蔵に運び込んでしまったため、部屋の中は殺風景だ。

年寄りの部屋特有の不思議なにおいが染みついた褪せた畳の上に、小さな座敷机と二箱の段ボールだけが残されている。

「読んでから片すから」と父は言い、実際ここに来ては思い出をたどるようにそれに目を通しているのを何度か見かけた。


段ボールの中身は、確か祖母の日記だったはずだ。




祖母が亡くなったのは、去年の冬のことだった。

私のハライノギが終わってから間もなくして倒れて入院し、退院できないまま帰らぬ人となった。

私と日菜子の親代わりという自負もあったからか、口うるさいおばあちゃんだった。

蛇神にまつわる昔話を、耳にタコができるほど聞かされたっけ……

だけど今思えば、あれだけうるさい人だったのに、自分自身の昔の話はほとんどしなかったような気がする。




段ボール箱の中には、A4のノートが何冊も入っていた。

いや……ぎっしりと、詰まっていた。

奥に詰まっているものほどノートは紙の色が変色し、ボロボロに傷んでいくみたいだった。

それが段ボール二箱分。

もしかして子供時代からつけていた日記が全部残ってるのか?と、私は少し腰が引けてしまう。