階段を下りながら、私は日菜子に「気楽にいこうよ」と告げようとした。

そのとき、ここに来るときに吹いたあの生ぬるい風が首筋をかすめ……心の表面をぬるりと撫でた気がして、思わず足を止める。


「あざみちゃん?」

「……ううん、何でもない」


首を振り、日菜子の手を握りなおして私はまた階段を下り始める。

胸にある秘密が―――日菜子には教えていないそれが、不吉な声で騒ぎ出そうとするのを、そっともう片方の手で押さえながら。