【陽音side】


それから数週間後、私たちは約束通りカラオケに行くことになった。


「さ~、何歌うかな」

「カイくんって普段なに歌うの?」

「んー、適当」

「うん、カイくんに聞いた私がバカだった」


狭いカラオケボックスに二人きり。
ドキドキしないわけじゃないけれど、それ以上に歌うことの方が楽しみすぎてそれどころではない。


「なんだそれ」


そう呆れたように笑いながら、ピコピコと慣れた手つきで機械を触って曲を選んでいる。

ワクワクと楽しそうな彼の横顔を見ているだけでなんだか心がじんわりと温かくなる。

何故かは分からないけれどカイくんといると“私も幸せになっていいのかな?”と思ってしまう。

そんなこと、許されるはずがないのに。


「よしっ、歌うか!」


その声と共にイントロが流れ始め、カイくんがマイクを握る。

そして、低くそれでいてずっと聴いていたくなるような、そんな甘い歌声で歌い始めた。

カイくんこそ、歌上手いじゃん。
なんか落ち着くなぁ、この声。

うっとりとしながら聴き入っていると、曲が終わっていたみたいでポン、と頭を軽く撫でられ、視線を上げるとそこには呆れたように私を見下ろすカイくんがいた。