望亜奈さんのことを見てる場合じゃなくて。

私も慌てて自分のデスクに行き仕事を始めるけど。目の前の主任をチラッと見れば、なにやら難しい顔で書類を作成中。

この感じだとたぶん、午前中一杯その作業をするだろうと睨んで、私は日々の業務作業に入る。

主任のパソコンは持ち運びの出来るノートタイプだから私の席からでも顔はバッチリ見える。

朝から眉間にシワを寄せて書類の作成なんて、私なら気分は憂鬱になりそうだ。

コーヒーをいれるにはまだ時間も早いし、気分転換も何も今始まったばかりだし。

私が今、主任にしてあげられることは……残念ながらなさそうで。

ついこの前までは一秒でも関わる時間を短くしようなんて思ってたのに、人の気持ちってほんと不思議。


とりあえず。
自分の仕事しよ。


集中して仕事を始めればいつの間にかお昼前。

今日はお昼がどうかわからなかったからコンビニによってこなかったんだよね。

きっと残業になるだろうし、ガッツリ食べておいた方がいいのかな?頭の中はすでにランチのことで一杯。

目の前の主任はと言えばあいかわらずの厳しい顔で画面を睨んでる。


ちょっと怖いです。


お昼時間になり、私はパソコンの電源を落としてロッカールームに向かった。


「ねね、モモちゃん」


あ、なんか望亜奈さんが私を呼ぶ声が嫌な予感です。


「は、い。なんでしょう?」

「今日って戻ってくる?」

「いえ、直帰って言われてるので戻りません」

「そっかー。やっぱりこれな―――」
「合コンは行きませんよ?」


もちろんとびきりの笑顔は忘れずに望亜奈さんの言葉を遮るように続けると。


「だよね……」
「ですよ?」


「その最強の笑顔が欲しかったんだけどなー」

「それ褒めてます?」

「だってさ、向こうの幹事に若い子連れて来てくれるんでしょう?ってさっきメールで念押されてさ」

「はぁ」

「だってJ社って言ったら結婚したい女子ばっか集まって、私が一番若いなんていい出せなくて」

「幹事の人が勝手に言ってるだけですよ!大丈夫です!望亜奈さんパワーで盛り上げちゃってください」


いや、盛り上げ役は合コンではもてないっていうのは定説だけど。


「でもね……」

「ムリですから、何時に終わるかわかんないですし」

「主任に言っとけば良かった~」


いやいや、『合コンあるから外回り同行別の日にしてください』なんて……望亜奈さんなら言いそうで怖い。