土曜日の朝。


「桃華ちゃん、おはよう」

「おはよ」


休みの日だというのにお母さんは早起きで、主婦に休日はないらしい。

一人暮らしをしてからお母さんが毎日してくれていた事が当たり前の事じゃないと知った。

それをすべて自分が出来る日は来ないんじゃないかって思う。

大体、料理ができない。ここでまず躓いてると思うんだよね。


「ねぇ、桃華ちゃん」

「んー?」

「今日も泊まっていくでしょう?」

「あー、ちょっと明日用事があって」

「あら、そうなの?残念。何かおいしいものでも食べに行こうかってお父さんと話してたんだけど」

「ごめんねぇ」


なんか罪悪感。

桃華はゲームがしたくて、自分の家に帰るんです。
なんてもちろん言えないし。


「せめてお夕飯食べて帰って?」


本当は明るいうちに帰るつもりだったけど、こんな風に言われちゃったら、


「ん。わかった」


お母さんの悲しそうな顔に弱いんだよね。

きっと今日も一緒に買い物に行って色々日用品を買ってくれて、夕飯は私の好きなものを作る予定だったんだろうけど。

こうやって甘やかされてるから、二十四にもなる娘はいつまでたっても自立できないんです。

両親のことは大好きだから一緒に過ごす時間も楽しい。けど、大人の女性になりたいなんて思いもあるけどこんな風に思ってるうちはまだまだなんだろうな。


「それじゃあ、ご飯いただきましょう?」


お母さんの作る朝ごはん好きなんだよね。

お野菜たっぷりの味噌汁と、焼き魚、それと甘い玉子焼き。

これぞ日本の朝ごはんっていう感じ。自分じゃ絶対作れない。

おいしく頂いて、両親とお茶をすすりながら世間話。


「久しぶりにのんびりの休日だなぁ……」

「桃華ちゃん、お仕事忙しそうよね?」

「あーうん。外回り同行とか鬼主任に言い渡されて、ちょっと気疲れしちゃった」

「お仕事もいいけど、いい人いたら家に連れていらっしゃいね?」

「母さん!いい人なんているわけないだろう?なぁ桃華」


いやいや。お父さん。
二十四歳の娘にいい人の一人や二人いないとまずいでしょう?


「あー、うん、いないけど」

「会社に素敵な人いないの?営業さんでパリッとしてて仕事が出来る人とか」


パリッとしてて仕事の出来る人は……いますよ。

たった今鬼主任って言ったその人ですけど、確かに素敵ですよ?

素敵だからって、その人がいい人になるなんてことはない。