「モモは、俺の目の届く所にいたらいいんですよ」
目の届く所?
すでに主任は東京に異動になってしまっていて物理的に無理……
「物理的な距離を言ってるわけではないですよ?」
なんで言葉に出してないのに…
しかも物理的以外の意味なんて?
「鈍感にもほどがありますね」
また鈍感って言われて、ここ最近で何度この言葉をいただいたことか。
いや、褒められたことじゃないのはわかってはいるけど、
テーブルの上に置かれていた私の手を主任はそっと取ると両手で閉じ込めるようにしてから
「もう部下じゃないですからね、存分に手出しできますね?」
存分に?
手出し?
目の前の主任は私の手を握りしめたまま、優しく?いや、心なしか楽しそうに見つめている。
それって、
主任?
「いつまでもこうしていたいですが、夕陽は待ってくれないですから。あとでゆっくり」
そう言うと握りしめていた手を放し、テーブルの上を片付けると立ち上がってゴミ箱に捨てにいった。
あとでゆっくり?
ゆっくり、なに?
放心状態でそのまま座っている私に、
「モモ、行きますよ?」
「あ、は、はい」
それこそ条件反射で荷物を持って立ち上がった。
それから、メイクなおしにトイレに行ったけど。
鏡に映る私はぽーっとしてて、しかも締りのない顔で。
こんな顔で主任の前にいたかと思うとまた顔が熱くなってくる。
手出しとか
あとでゆっくりとか
そんなこと言ったら誤解しちゃうのに
……ほんとに?
結局赤い顔のまま戻った私に「顔が赤いですが大丈夫ですか?」と言って額に手を当てる主任。
だから、そんなことしたらもっと顔が……
「あ、もっと赤くなった」
もしかして、主任。
私で遊んでます?
ちょっと下から睨んで見せたけど、まったく動じることのない主任。
「すみません、かわいらしいもので、つい。」
つい、じゃないですよ。
私で遊ばないでください。
それに今日の主任はずっと笑ってて、今までのクールな印象のかけらもなかった。
この笑顔をずっと見ていられたら……
一緒にいればどんどん欲張りになる自分を止められなくて
今までよりもっとたくさんの主任の顔が見たいと思い始めていた。

