潤兄のおかげで美味しい料理はいただけたんだけど。
でも、なんでここ予約したんだろ?
お酒飲むんだったら、アースのほうがお手軽でしかも向こうの方が近い。

考えてみれば、まともな食事は久しぶり。
味はもちろん、目でも楽しめる朔也さんの料理。
だから今日は食べる気にもなったんだけど。

帰りに約束どおりメアドを書いたメモを渡してレストランを後にした。
それから、潤兄の行きつけのバーまでまたタクシーで移動して、望亜奈さんたちは一時間ぐらいして帰っていった。


「今日はもういいのか?飲まなくて」

「うん」


この前に「私にも飲みたいときがある」なんて言ったからそんな事聞くんだろうけど。
あのレストランにいくと、頭の中に主任の声が聞こえてきたような気がして
全然お酒がすすまなかった。


「んじゃ、そろそろ俺たちも帰るか」

「……」

「桃?」


返事をしない私に、席を立とうとしていた潤兄はもう一度座りなおした。


「……俺さ、今日酔ってるから聞いたこと明日には覚えてないと思うんだよな」


なにそれ。
大体、全然潤兄、酔ってなんていないじゃ……


「吐き出したら少しは楽になるかもよ?」

「吐き出すって、そんな汚いっ」

「ま、似たようなもんだろ?ドロドロした何か、だろ?」


ドロドロした何か。
そんな風に潤兄には感じるのか。
でも、潤兄になら何か正しい解答に導いてくれる?

主任の行動の意味を。
私の気持ちの持っていく場所を。


「……もう少し、飲みたいかも」


あと少し飲んだら、言い出せる?
ドロドロした何かを吐き出せるのかな?


「じゃ桃。オレん家でゆっくり飲まね?」

「潤にぃの家?いいの?」

「酒しかないけど、」


ゆっくり聞いて欲しいって思うから、私は潤兄の家に行くことにした。