お店に入ると、そこにいたのは素敵に微笑んでる朔也さん。


「桃華ちゃん。来てくれたんだ」

「あ、こんばんは」


そうか、潤兄、予約してたって言ってた。
朔也さんの前で名乗ってたから、覚えていたのかもしれない。

でも、今は……
朔也さんの顔を見れば、主任の事を思い出してしまうから。


「桃華ちゃんにお願いがあって、連絡したいと思ってたからちょうど良かった」

「お願い、ですか?」

「うん、実はさ―」


カルチャースクールから、月二回、一年間講師をして欲しいとの要請があったらしい。
直接ではなくて、お父様経由での依頼らしくて断れずにすることになったみたい。
だけど、私にお願いって何?


「で、お友達と一緒にそれに通って欲しいんだよね」

「是非っ!」


ちょっと、望亜奈さんっ。
何勝手に返事してるんですか?

しかも彼が隣にいるのに、若干目がハート。


「どうかな?桃華ちゃん?」

「壊滅的料理センスなんで、是非鍛えてやってください」


ちょっと、潤兄までっ
それは、壊滅的センスってところ完全には否定は出来ないとこが悔しい。

微笑んでまっすぐ見つめてくる朔也さん。
なんですか、それ。
目からビームとかでてませんか?


「……でも、」

「どうせ教えるんなら知ってる子に教えたいしね」


まって、人気シェフの料理教室なんて予約殺到じゃないの?
しかも、それ高いんじゃ?


「あ、講習料はいらないからね。そのへんは大丈夫」


う、なんかそんなことまで見抜かれてる。
やっぱりその目から何か出てますよね?


「詳細をメールしたいから、あとで二人のアドレス教えてね」

「わかりましたぁ。帰りにお渡ししますね」


ちょっと、望亜奈さん?
私、行くとも行かないとも言ってませんけど?


「じゃ、席に案内してもらってね」


なんかよくわからないうちに料理教室に通うことが決定。
その間、私の発した言葉は「でも」だけ。