入り口で少しだけ待ってもらって部屋が散らかっていないか確認をする。
特に問題がなかったのですぐに主任を招き入れ、お湯を沸かしはじめた。

時刻は十時前。

少しは話、できるかな?
なんて思っていたのに、結局は無言。
お湯がわく間、キッチンにただ立っているわけにもいかず部屋に戻ったはいいけど。

何、話していいかわかんないっ

私が部屋に戻ると主任は私に問いかけた。


「なんで、あんな無茶な飲みかたしたんですか?」


なんで?
そんなの、主任に言えるわけがない。


「遠くにいるからたしなめる事もできませんでした」

「いや、あの、飲めるかなぁって思って?」


うまくごまかせた?
主任は怒ってると言うよりも、なんだろう、これ。


「あ、お湯沸いたみたいなので、コーヒー入れてきますね」


その場から逃げるようにキッチンに行きコーヒーを淹れはじめた。
この前と同じようにマグにコーヒーを注ぎ、主任の前に置いた。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


いつも事務所でコーヒーを渡したときみたいに笑顔でお礼を言って飲み始める。


「…おいしいですね」


本当にこれで、主任にコーヒーを入れるのは最後。
言うなら今しかないのかもしれない。


「主任っ、あの、私っ」
「やっぱり天ケ瀬さんの入れてくれるコーヒーはおいしいです」


へ?
や、あの、それはさっきも聞きました。
そうじゃなくて、私は主任に聞いて欲しいことがあるんですけど。


「…ありがとうございます。あの、主任?」

「残念ですね、このコーヒーが飲めなくなるのは」


あ。
主任、残念って思ってくれてるんだ。
その言葉に後押しされるように、私はもう一度勇気を出して話しかける。


「私も、主任にもっとコーヒー淹れたかったです」


あぁそうじゃなくて。
いやそうなんだけど、言いたいのはこんなことじゃなくて。


「私、主任のこ――」
「天ヶ瀬さん。」


へ?
なんでそこで私の言おうとしてることを止めるの?

今の、わざと、だよね?
もしかして、聞きたくない、とか?