送別会が始まってしばらくの間はみんな主任の周りに入れ替わり立ちかわり行って挨拶してた。
始まってから一時間経つ頃には店舗のスタッフも合流して本格的に送別会の形になった。

望亜奈さんが隣に座ったので私はグラスを渡す。


「望亜奈さん、おつかれさまです」

「おつかれさま、っていうか。なんで桃ちゃんこんな隅っこに座ってんの?」

「あー、人も多いですし、」


それだけじゃないでしょって顔で見られたけど、気づかなかったことにしてそのままビールを注ぐ。
だって、どんな顔でどんな話を主任とすればいいのか。
今の私にはわからない。


「私ももうちょっとしたら挨拶しに行くから、桃ちゃんも一緒にいこ?」

「……いえ、私は。」

「今日で最後なのに何言ってんの?」


最後だから、行きたくない。
そんなの現実だって認めたくない。


「私は帰りにお話しますから」

「…ほんとに?」

「はい、今まで育ててもらったお礼も言えてませんし、そのぐらいは部下としてしますよ……」


うん、部下としては当然。

二年弱、主任の下について教わってきたこと、経験したことは私にとっては貴重な体験だった。
それはほんとに感謝してる。
仕事についての向き合い方も、主任の下に付いたからこそ考え直せた。
主任についていなければ、腰掛程度の仕事姿勢でしかいられなかったかもしれない。
それに人としてまだまだ子供だということを気づかせてくれたのも主任だった。

……そして、こんな気持ちを教えてくれたのも。

帰り際にちょっとだけそれを伝えること許してくれるかな。


「とりあえず、明日はお休みですし、飲みましょ、望亜奈さん」


そう言って梅酒をオーダーして望亜奈さんと乾杯した。


「望亜奈さんのノロケ話も聞きたいですし」

「かわいいこと言ってくれちゃって」


望亜奈さんの幸せな話を聞きたいのは本音。
少しでも、その幸せお裾分けして下さい。

私は、隅っこでみんなに囲まれる主任を見ながら望亜奈さんの話を聞いて梅酒を飲み進めていった。