主任は一番小さな会議室に入りドアを閉めると「何かありましたか?」と聞いてきた。
優しく問われて抱いていた疑問をそのままぶつけてみる。


「……主任は、異動になるんですか?」


その質問にハッとした表情をした主任はすぐに冷静な顔に戻って


「まだ内示の段階ですのでそれは言えません」


あぁそうか。
直属の部下とはいえ、そこまでいう必要はないってことか。
やっぱり主任にとって私はただの部下にしかすぎないってこと。


「正式に発表があるのはここ数日だと思います」


言えないということは肯定だということだから。


「……そう、ですか」


そういうのがやっとだった。
少しずつ距離を縮められればとか、一緒の時間が増えればとか。
そんなことはこの先もう叶わない。


「天ヶ瀬さん。忙しい時期ですから迷惑を掛けると思いますが」

「……。わかりました」


このままここにいたら何か訳のわからないことを言ってしまいそうで、これ以上追求してもなにも教えてくれるはずないから。


「今日は…お先に失礼します」


一礼してから会議室を退室して、そのままロッカーに向かい着替えを済ませた。


『もうすぐ主任じゃなくなる』

確か、そんなようなことを少し前に主任が言ってた。
その時は全く意味が分からなかったけど、こういうこと。だったのか。

上司と部下じゃなくなった私と主任は。
ほぼ何の接点もなくなって。
一緒に外回りを同行することも、もちろんご飯を食べることもこの先たぶん、もうないことなんだ。

だから、水族館に一緒に行ってくれた。
最後だから、きっと。

やっぱり主任は、保護者的な感じで私の事見てたんだ。

そうだよね。
私が主任の隣にいるなんてことあり得ないのに。
なに勘違いして頑張ろうだなんて。

もうムリ。
もう頑張れない。

私の考え方が変ったところで
もう何も変らない。

そのまま家に帰り、現実を受け止めたくなくてPCの電源をつけた。