コーヒーをマグカップに淹れて、角砂糖と一緒に運ぶ。
会社でしてる事を、自分の家でするのはなんとも不思議な気分。

お客様用のカップもないし、パッケージのかわいい砂糖は主任には子供ぽく思われるかもしれない。
そんなことを思いつつ「どうぞ」と主任の前に置いた。


「ありがとうございます」


いつもと違うカジュアルな服装で休日モードの主任が砕けた様子で座っている。もちろんメガネなし。
私服姿の主任をみるのって何度目だっけ……

ついつい主任のコーヒーを飲む姿を見つめてしまう。
コーヒーショップで待ち合わせたときもそうだった。
なんて綺麗な所作でコーヒーを飲むんだろうって。


「…やっぱり天ヶ瀬さんの淹れたコーヒーは、おいしいですね」


へ?
インスタントは苦手だから一応ドリップ用のを買ってるけど、それだってスーパーで売ってるやつだし。
水だって、ただの水道水だし。
それのドコにおいしい要素が?


「会社とあまり変らないと思うんですが…」


たしか、主任の家でコーヒー淹れた時もそんな事言ってたような。


「まさか朝から天ヶ瀬さんの淹れたコーヒーをいただけると思ってなかったので」

「…こんなことでいいのなら、いつでも」


主任が飲みたいって言えば、朝だって昼だって。
そう真夜中だって淹れてあげるのに。
……そんなありえない事考えたりして。


私ってば、主任が目の前に居るのにまた妄想。


そうだ。目の前にって、主任に視線を戻してみれば、笑みさえ浮かべる感じで。
私を、見てた?


ええええええええ。
主任に見られてたっ


うわーうわー
もう、すっごい恥ずかしい


あぁまた主任の前で失態を。
ありえない。私。


少し落ち込んでいる私の耳に聞こえたのは、主任の声。


「ここで寛いでいるのも魅力的ですが、今日は水族館が待ってますからね。そろそろ出られますか?」


いつのまにかすっかりコーヒーを飲み終えていた主任。
すでに準備万端で、移動しますよっていう雰囲気。


「あ、はい。大丈夫です」


「ごちそうさまでした」主任はそう言ってからキッチンまでさげてくれたマグカップ。

なんかそういうことをさりげなくする所がすごく嬉しい。


そうだ。
今日は水族館とそれと朔也さんのレストランに行くっていうのがメインだった。

私は手早くカップを洗うとコートを着て玄関を出た。