「桃ちゃん、おはよ♪」

「おはようございます。望亜奈さん」

「例の準備は順調?」


例の。
望亜奈さんと結託したであろう潤兄にまんまと約束させられた例のアレ。
二月に入ったというのに……


「……まぁ、ぼちぼち?」


溶かして型に入れるだけって潤兄は言ったけど、さすがにそれじゃあどうかと思ってチョコクッキーに挑戦してる。その選択がいけなかったのか、未だに成功していない。

いいかげんあきらめて溶かすだけにすればいいかと、最近ではちょっと思ってる。

だって今日からゲーム内でイベントが始まる。
練習の時間も限られてくるから

現実のチョコよりゲームイベのチョコって、私ってどんだけゲーム優先。
だって潤兄にあげるのに、気合いれても、ねぇ


「そう、楽しみね」

「……はぁ」


気のない返事をする私に望亜奈さんは、


「わかってると思うけど、チョコ同盟。いれてあげないからね?」

「えええええええ?!」


去年だって営業さんに連名であげたじゃない?
お金だけ渡せば、担当の子が買いに行って名前を書いて終わり、だったのに。


「あたりまえでしょ?そのための練習なんだから」


そのための練習ってことは、潤兄は実験台、いや練習台ってこと?


「潤兄になんか言いましたね?望亜奈さん……」

「んー?何も~」


うそばっか
望亜奈さんが言わなきゃ、手作りチョコ食べたいなんて潤兄が言い出すはずないのに
まぁそれにうまく乗せられて約束した私も私なんだけど

最初はうまくできたら主任にも、なんて考えもあったけど、この時期でこれだと無理そう。
ほんと、あきらめて溶かして固めるだけ、にしちゃう?


いやいや、初めてあげるチョコがそれでいいの?
いやむしろほんとにあげるの?私?

なんとなくあげる方向に話がいってたけど、考えてみたらあげなきゃいけないなんてことはないはず。


「桃ちゃんの名前書かないから、自分の上司にあげないとかは、……ねぇ?」

「ぇ?」


それは、さすがに……

義理とはいえメッセージカードに自分の名前一人ずつちゃんと書いて渡すシステム。
なんで女子一同にしないの?って聞いたらそれじゃ心がこもってないでしょ?って。
連名にする時点ですでに……


「ま、もう少し日にちはあるし頑張ってね♪」


すっかり他人事。
その間に自分はまた合コンでも行くんでしょうか?