急に意識が戻ってきて、慌てて運転席の方を見ればシートを少しだけ倒して目を瞑っている主任。
ずっと運転してくれていてきっと疲れているだろうし起こしちゃいけない。


外の街灯の明かりが少しだけ入ってきて、主任の顔を照らしている。


あ、まつげ長い。


私よりも二十センチ以上も背の高い主任。
間近で顔を見る機会なんてそうないから、ついついチャンスとばかりに見つめてしまう。


鼻筋が通っていてすっきりと整った顔立ち。だけど眠っていると少し幼ささえ感じるその寝顔。
普段はきっちり整っている髪も今日は無造作にされていて。


たぶんさわったらサラサラなんだろうなぁ

ちょっとだけ触りたいかもなんて一瞬思ったけどぐっとこらえる。

そういえば……夏に主任が出張から戻ってきた次の日、すごい熱で看病したことあったっけ。


あの時は夢中で何も考えずに額に触れたりしてたっけ。
今考えれば家まで上がって、しかも看病途中で寝てしまって泊まるとか大失態。
また今日も主任の運転中に寝るなんて、ほんと私ってなにやっても……


「…ん」


おっと、起きちゃう。
もうちょっと見ていたいから、まだ起きないで。

私があまりにも見つめすぎていて気づいてしまったのか、主任が起きてしまった。


「そうやって天ヶ瀬さんに見られるのは看病してもらった時以来ですね」

「あ。」


見てたってバレてる。
一瞬にして顔に熱が集まってきたのがわかって慌てて目を逸らす。


「寒くなかったですか?」


そういえば、寒くなかったって言うかむしろ温かくてそのおかげでぐっすりと眠っちゃったって言うか。
とそこで、その理由にはじめて気づかされた。


温かくて安心する香りのしたソレは主任のダウンで。
どうやらそれを温かい布団と勘違いしてぐっすりと眠ってしまったらしい。


「うわ、あの、すみません。主任こそ、寒くなかったですか?ダウンかけてくださったんです、よね?」

「寝ると体温が下がりますから。風邪引いたらいけませんし」

「あの、これ、お返しし―――」
「まだ、夜が明けるまではしばらく時間がありますから。そのままで」


そう言われちゃうと、返すに返せなくて。
ありがたくそのまま使わせていただくけど、今度は眠れそうにない。

時刻は四時。
日の出まではまだ二時間以上もある。