彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)

主任が去ってしまい、呆然とする私の目の前に白い小さな紙コップが置かれた。


「どうぞ」


顔を上げて声のしたほうへ視線を向けるとそこにいたのは主任で。
そしてもう一度席に座って、


「それを飲んで落ち着いてください」


主任はどこかに行ってしまったのではなくて、お水を取りに行ってくれただけで。
また主任に迷惑をかけてしまったみたい。


私は持ってきてもらったお水を飲みながら


……どうして私って、主任の前だと失敗ばかりしちゃうんだろ


キャラメルマキアートじゃ熱すぎてたしかに飲めない。
主任っていうもこうやっていろんなことに気がついてくれる。


「ありがとう、ございます……」


そして私は赤くなってしまった頬に手を当てて冷やしながら、もう一度主任に聞く。


「ご一緒させてもらってもいい、ですか?」

「もちろんです」


今度は主任も微笑んでくれて、やっと私はほっとして飲み物に口をつけた。


こんな風に主任に微笑んでもらえるのは嬉しい。
いつか私のためだけに主任が微笑んでくれたら、いいのに。
そんなこと。贅沢、だよね?


会話もなく、二人ともコーヒーを飲んでいるだけだけど
緊張ではなく、なんとなくだけど穏やかな空気が流れているような気がしてまた妄想する私。


いつか私のいれたコーヒー飲みながら微笑み合えたらいいのに

さっき贅沢だって思ったのに、目の前で主任を見てるとそんな瞬間が来ることを夢を見ずにはいられない。

欲張りになっていく自分にあきれながらまた一口、こくりと音を立てて飲む。


「そろそろ帰りますか?」

「あ、はい。私、送っていきますね?」

「いえ、天ヶ瀬さんの家から歩いて帰りますから大丈夫です」


なんか前もこんなことあったっけ。
確かに近いけど、


「でも、寒いですよ?」

「……より数段いいです」


コートを着ながら主任が何か言ったみたいだけどよく聞こえなくて聞き返したけど


「なんでもありません」


帰りますよって主任に言われてそのままお店を出た。