すると突然顔を上げた主任が、


「初日の出、」


って、元旦の日の朝にはじめて見るアレよね?
大体私はいつも寝てて大人になってから見てない気がする。


「一緒に行きますか?」


一緒に?
どこに?
って、えっと?


「朔也も、一緒ですが……」


ため息混じりに言う主任。
その視線はまたコーヒーに落ちてしまっている。

えっと、朔也さんと初日の出?


なんだっけ
なんかそんなこと聞いたような気もしないでもないけど
なんだっけ。
えと、何話したっけ。


「朔也に、誘うように念を押されていたのを忘れてました……」


忘れてた?
私だって、頭の中で検索し続けてる。
わずかに記憶に引っかかったのは世間話。
すっかり頭の中から抜け落ちてたぐらいのたわいない会話。

夕日が日の出に変わってはいるけど。
でも確か日の出を言い出したのは朔也さんだったかもしれない。


「……あの、私が行ってもいいんでしょうか?」

「むしろ天ヶ瀬さんご指名です。……朔也が」


朔也さんが。
その言葉言うの、主任何度目?
“朔也さんが”って言わなくてもわかってる。
朔也さんが言うから仕方なくっていうのは十分わかってる。


それでも主任と初日の出なんて見れるのはもう二度とないかもしれない。


いつもどうせ家で寝てるだけだからお母さんに言えば大丈夫だよね?
新年のご挨拶も帰ってきてからすればいいし。


私は頭の中で考えて答えようとしていた時に、


「ご家族と過ごすんでしょうから、無理で―――」
「あのっ、ご一緒させてください!」


主任が急に目を見開いて、慌てたように言う。


「天ヶ瀬さん?とりあえず、落ち着いて」


え?
主任に言われて慌てて周りを見渡すと私は何故か立っていて


一緒にいけなくなっちゃう!
早く言わなきゃってそればっかり考えてて。
大きな声になってたこととか
急に立ち上がったこととか
まったくの無意識だった。


一瞬にして顔が熱をもってきっと耳まで赤くなってる。
私はそのまま俯いて椅子に座ると小さく呟いた。


「…スミマセン」


すると主任が突然立ち上がってどこかへ行ってしまった。