スーツ姿で運転する潤兄を見ながら、「潤にぃ、仕事帰り?」と聞いてみた。


「そうだけど、どうした?」

「あースーツだからね、なんていうか―――」
「かっこいいって?」


そうだけども
いや、そうじゃなくってっ
普通自分で言う?


「……」

「だからそこ、無言になんなって」

「だって……」


いや、確かにかっこいいからね
それについては否定できないから


「何、桃ってスーツに弱いの?」

「あー。うーん。…そうかも?」

「何その疑問系」

「やー、うーん。最近そうなのかなぁと自分でも気づいたって言うか……」


ある人を思い浮かべながら答えた。

第一印象素敵とは思ったけど、怖くて近寄れなかった。だからじっくりとスーツ姿を見るなんてこともなかったし。大体こんな風な気持ちになるなんて……


大体スーツってキーワードでなんで主任のこと思い出しちゃったんだろ。

主任は今日、きっと大切な人と過ごすのに。


「桃?どうした?」

「え?あ、ううん、なんでもない」

「お腹空き過ぎて、ぼーっとしたか?」


そう笑いながら言う潤兄。
いつまでも子ども扱いなんだから。

でも、せっかくおいしいもの食べに行くんだもんね、暗い気分でいたらおいしいものもおいしく感じなくなっちゃう。


「うん、おなかすいた」

「待ってろ。もうすぐ着くから」


うん、おいしいもの食べたらきっと元気になるから。

暗くなってしまって景色なんて見えない外を向いて、やっぱり考えてしまうの主任のことで。

こうやって男の人の助手席に乗るのは主任の運転する車に乗って以来。

あの緊張感にたまらなくどこかに逃げ出したくて、でもずっと隣にいたくて複雑な心境で。

確かに潤兄は素敵だけど、やっぱりそれとは違う。


だいたい、イトコだし。
いくらイケメンでもねぇ。


そんな私の姿を信号で止まった潤兄が見ているのを、窓ガラス越しに気づいて振り向いた私は、


「どしたの?潤にぃ?」

「…いや、なんでもない」


そう言ってすぐに前に向き直ってしまった。
へんな潤兄。