「キッチンはこちらです」


案内されていくとどう見ても使ってなさそうなシンク。
使っている様子があるのはコーヒーメーカーぐらい。


「何を飲まれますか?」

「コーヒーをお願いします」

「コーヒーでは薬が飲めませんけど……」

「天ヶ瀬さんのいれてくれるコーヒーはおいしいですから」


って、主任聞いてた?私の話?
薬飲めないでしょ?って話したのに、私のいれるコーヒーがおいしいとか。
事務所のコーヒーなんて粉のヤツセットして水入れてボタン押すだけだよ?
誰がいれても味一緒じゃない?


「コーヒー飲んだから、その後にちゃんと何か食べてくださいね?」


まるで子供に言い聞かせるように言っちゃったけど、だってこのぐらい強く言わないと薬さえ飲まなそう。


主任はフって鼻で笑ってから「わかりました」と言ってコーヒー豆のある場所を教えてくれた。
そんなに広くないキッチンで主任に手元を見られているような気がして落ち着かない。


「あの、お持ちするので座って待っていてください」

「せっかく天ヶ瀬さんのコーヒーを入れる姿が見られると思ったのに残念です」


はあ?
今主任なんて?
ちょっと具合悪くて頭までおかしくなっちゃったんじゃないの?って主任を睨もうとしたらすでにそこにはいなくて。
んーそう聞こえたのは気のせいだったのかな?なんて。


コーヒーのしずくが少しずつ落ちるのを見つめていたけど、まだ少しかかりそうだから少し周りを見渡す。

大きい冷蔵庫。
だけど、さっき主任があけたときに入ってたのは飲み物しかみえなかった。
どうやって暮らしてるの?っていうぐらい調味料さえ見当たらない。

その代わりお酒だけは沢山ある。
私は全く種類とかわかんないけど洋酒や日本酒、焼酎からワイン。ん?梅酒までおいてある。


コーヒーカップはすぐに見つかったのでそれをお湯で温めて準備する。
そうしてるうちにコーヒーも出来上がりカップに注いで主任のいるところに向かった。
トレイなんて見当たらないし、とりあえず主任の分だけでも。

先ほど主任が消えたほうにリビングがあるだろうと思いその方向に向かう。

目を瞑り、ソファーに深く座ってもたれるようにしている主任。
やっぱり相当具合が悪いみたい。


起こさないように、そっとテーブルにコーヒーを置いてもう一度戻ろうとした時、左の手首をつかまれた。