地下駐車場からエレベーターで12階まで。
地下でもエントランスでも乗ってくる人はいなくて。
そんなに広くはない密室の中で無駄に緊張していて、ただ上を向いてランプのついていく数字を目で追っている。

12階まであと少し。



チンという音とともに扉が開いた。

エレベーターを降りる主任の後についていく。


うちのアパートと違って扉が四つ横に並んでるわけじゃない。
また来る事なんてないだろうけど、帰り道ぐらい覚えておかないと。


エレベーター降りて左。
なるほど、この建物はコの字型になってるんだ。で1号室だから突き当りって事なのかな。


この前送った時は、エントランスがチラッと見えただけだけど、けっこう高級マンションなのかもしれない。

今日は地下駐車場からあがってきたけど、けっこうじゃなくてかなり高級マンションだってことがわかった。

こんなところに一人で住んでるの?


「ここです。今鍵あけますから」


そう言って片手にカバンとペットボトルの入った袋をまとめて持つ主任。
鍵をポケットから出すとカチャリと音がして玄関のドアが開いた。


別に家の中に入るわけじゃないのに、何故か緊張する。


「どうぞ」


ん?どうぞ?
入れって事?

あぁそっか、私の家でも玄関まで荷物運んでもらったっけ。
中まで入って渡せばいいのかな?


「しつれいします……」


何故か床面を見ながら玄関に入った私に主任からの声が届いた。


「運んでいただいたお礼に飲み物でもいかがですか?」


驚いて顔を上げると目の前に主任がいてこちらをじっと見ている。


「え?あ、の。具合、は?……」

「なにか口に入れてから休まなければいけませんし、一緒にいかがですか?」

「あの、じゃあ、私がっ」


って言ってしまってから、キッチンに入るってことになるけど迷惑かもしれないのに。
なんだって今日の私はそんなことも考えないで口から出ちゃうんだろう。