定時になっても主任はパソコンに向かったそのままで、時折ため息のような荒い息遣いが聞こえる。

主任は気づいていないみたいだからやはりよほど具合が悪いのかもしれない。
きっと出張中も具合が悪いのに無理をしてたに違いない。


「主任、あの……」

「終わりましたか?」

「はい、」


って、そうじゃなくて。
思い切って具合の悪いことを指摘しようとしたのに、主任はいつもの帰る前のやり取りと思われてる。


「では今日はあがってください」


だからそうじゃなくて。
あがって欲しいのは主任のほうですって。
ガンバレ、私。
ちゃんと言わなきゃ。


「あの、主任も」

「はい?」

「今日は帰られたほうが……」


その瞬間、ハァーって下を向いて大きくため息を付く主任。
やっぱり差し出がましいこと言っちゃった?


「普通にしていたつもりだったんですけど、まだまだですね」


いまや、主任の口角が一度あがっただけでも私はその変化を読み取れるほどになってるから。
今日はあきらかに、誰が見たって……わかる。


「天ヶ瀬さんのいうように、ここでやっても効率が上がらないので家ですることにします」


いやいやそれじゃ意味ないと思うんですけどね?
出来たら薬飲んでさっさと寝て欲しい。
けど、そんなこと言っても絶対に仕事はしそう。


「あ、じゃあ私送ります」


気づいたらそう言ってた。
勢いで言っちゃったけど、これってちょっとなんか、


「すぐに帰るか疑ってますか?」

「いえっそうじゃなくて」


心配なんです!って心の中で叫んだ。