そして翌日。

夕方近くなって何故か浴衣を着せつけられ中。いやお祭りだから着てもおかしくないんだろうけど。

いつの間にか新調されていた今までよりも大人っぽい柄のそれ。

去年まで着ていたのは可愛らしい小花柄だったけど、今日着せられたのは水の流れの中に菖蒲(あやめ)があしらわれている。

この柄自体はすごく素敵なんだけど、私にはまだちょっと似合わない気がする。


「お母さん、これどうしたの?」

「素敵でしょ?この前見かけてね。買っちゃった」


いや、買っちゃったじゃなくて。

ていうか、一年に一度ぐらいしか着ないのにもったいないなんて思う私が間違ってる?


「だって桃ちゃんもう24歳だし、お嫁入りにこういう柄も持ってた方がいいと思うの」


お嫁?って言いました?
そんな話どこから出てきたんですか?


「お嫁行く予定ないけどね?」


だって、この前もそういう人いないって言ったばかりだし?
彼氏がいないのは寂しいけど、事実だから仕方がない。


「……この前ね、桃ちゃんを見かけたらしいわよ?」


へ?見かけた?
今の話と見かけた話、どう繋がるわけ?


「姉さんがレストランで桃ちゃんを見かけたんですって」


レストランで?
見かけた?

それってまさか、主任と一緒にいるところ?


いや、でもきっとランチ時間とかのはず。

まさか休日にあのお店にご飯食べに行ったりしてないよね?


「え、と……いつ、かな?」

「先週の土曜日だったかしら。もう桃ちゃんたら、そういう人がいるならいるって―――」
「いや、あれはそうじゃなくて」


慌てて弁明しようとするけど、


「え?だってお休みの日にイケメンの人とお食事してたって姉さん言ってたわよ?」

「や、あれは上司だからっ」

「上司さん?ってまさか、パリッとしてて仕事が出来る人?」


最後の帯を締めて前から浴衣を手直ししていたお母さんはパタリと手を止めた。

まっすぐ見つめてくるお母さんの目がキラキラしてる。

しかも何で?そのお願いポーズ?


「パリッとしてて仕事は出来るけど、超鬼ですけどね?でも―――」
「キャー桃華ちゃん。今日はお赤飯ね?」


いや、だから最後まで話しは聞いて。

付き合ってないってば。
ねぇ、お母さん?
話途中で行かないで。