俺は、自分の部屋で一人、そう考え込んでいた時のことだった。




コンコンコンッ




「そーらーくんっ♪」




ドアの向こうから、ノックとともに由香里さんの声が聞こえる。




「は、はい!」




ガチャッと部屋のドアを開けると、由香里さんがにこにことして立っていた。




よく見ると、由香里さんはスーツを着ている。




「ごめんねゆっくりしてるところ。あのね、今日急に仕事行かなきゃいけなくなって……。本当は休みだったんだけど。悪いんだけど、お留守番頼めるかしら?どこか行く予定あった?」




由香里さんは、少し困った顔でそう言ってきた。




「あ、いや全然予定はないです」




俺はすぐに答える。




「そう〜?あ、ちょっと耳貸して」




由香里さんはちょいちょいと手招きをしてきたので、俺は言われた通りに由香里さんの目線に合わせて少しかがんだ。




そして、由香里さんは小声で話し始めた。




「陽菜も家にいるから、よかったら話しかけてやって」




「……いいんすかね」




由香里さんの小声に合わせて、俺も小声になる。




「陽菜、空くんのこと嫌ってないみたいだし、大丈夫よ。気を遣わせちゃってごめんね。でもあの子、あんなこと言ってたけど、本気じゃないと思うから」


「……そう、ですか」


「ありがとうね空くん。あなたなら、陽菜もすぐに心を許しそうだわ」




「ふふっ」と笑みをこぼす由香里さん。




それに対し、首を傾げる俺。




「なんで、そう思うんですか?」


「んー、女の勘よ♪」


「か、勘……」


「じゃ、行ってくるわね!早く帰ってこれるようにするから♪いってきます!」




由香里さんはそう言って、小走りで俺の前から去っていき、階段を降りていった。




「いってらっしゃい……」




俺は、由香里さんのパワフルな行動力みたいなものにおされていた。




由香里さんが行ってしまったあとに、張りのない弱々しい声で見送った。