高校生活に慣れた初夏のある日、凛月(りつき)が帰ろうと校門を出ると、

「あの…1年の瀬川 純生(せがわ じゅんき)って、帰ったかどうかわかりませんか?」

中学校の制服を着た女の子・瀬川 粋香(すいか)が、凛月を見た。
粋香を見た時、

「あ…かり」

思わず、茜里(あかり)の名前を口にしていた。

黒髪で、真っ直ぐなストレートヘアー。
眉は薄め、猫目で、血色の良い唇。
全体的に小さく、…不思議そうにこちらを見ている彼女は、まるで、凛月の記憶から抜けたかのように、茜里にそっくりだった。

「…え?あの」

粋香が慌てて、ハンカチを差し出す。

「なんで」

いきなり、ハンカチを渡され、戸惑う凛月に、

「泣いてます」

粋香は、凛月を見ないように、気を遣いながら答えた。

「…そんなはずない」

呟きながらも、頬に手を当てると、そこは冷たく濡れていた。