「ミヤ来ねえじゃん!」
「いや、しらねぇよ。」
放課後、廊下を歩いていた大ちゃんを捕まえた。
服をぐいっと引っ張ると面倒くさそうに俺の方を一瞥する。
ミヤ、今日来るって言ったよな?
え?明日来るって言った?
俺、馬鹿だから覚えてねえよ。
「大ちゃあああああん、もうミヤ不足で死にそう。」
早く手を話せガラガラと窓を開けながら、タバコに火をつける大ちゃん。
ココ廊下なんだけどなあ、とか思うが、地面には大量の吸殻。
この学校じゃ、全てが喫煙所だもんな。
「アイツ、どうしたんだろう!何かに巻き込まれたのかな?!」
ふー、とタバコの煙を暢気に吐き出す大ちゃん。
ミヤに何かあったらどうするんだよ。
第1、大ちゃんがちゃんとミヤを叱らないからいけねえんだよ。
だって遅刻してもゲンコツだけじゃん。
あんなの、痛くもないわ。
「おい、原田。アイツも'オトコ'だ。心配することなんざねェだろ。」
「...オトコだからって心配してもいいだろ!得にミヤは特別だ」
ミヤは特別だ、俺の中では誰よりも。
暗闇から俺を救ってくれたミヤの手は、何よりも大きくて光って見えた。
「アイツが特別ねェ、」
窓の外を見つめながら、どこか楽しげに呟く大ちゃん。
何が楽しいのか全くわかんねえ。
片手に持ったタバコを器用に弄びながら、にやりと口角を上げた。
「まあ、明日には来るんじゃねェの?」
そう言って、まだ長いタバコをポケットから出した灰皿に押し当て、窓枠から体を起こした。
そして、ヒラヒラと手を振り、俺に背を向けて廊下を歩き出す。
大ちゃん、ミヤのこと全く心配してねェな。
担任のくせに薄情なやつだ。
いや、もしかしたら
「'しってる'のか。」
もしかして、大ちゃんは知ってるのかもしれない。
俺しか知らねェはずの、ミヤの秘密を。
だったら、余計心配になるはずだよな。
偶然知ったミヤの秘密、ミヤ自身は俺が知ってることを知らねえ。
どうして、隠してるのか。どうして、俺には言ってくれなかったのか。
そんなこと思っても、ミヤには伝わりやしねェけど。
ミヤが俺に言ってくれるまで、俺はミヤに言うつもりも悟られるつもりもない。
はあ、午後からの授業もミヤいなかったらいる意味ねえしな。
「帰るか、」
今日はもう帰ろう。
荒れ果てた校舎を抜けて、俺は帰路についた。
