凪ぐ湖面のように

「それもこれも、身から出た錆なんだけどね」

確かにそうだ。節操無しが原因だ。

「だから君には誠実で素直でいようと思っている」

いやいやいや、「素直過ぎるのもどうかと思いますよ」と軽くツッコム。

素直になられても私の思いは変わらない。
私は海を心に抱き一生を終える。そう決めている。

「――岬、僕は海君を忘れろと言っているんじゃないよ。一度でも心に入れた人はどう足掻いても消し去ることはできない」

だったら、湖陽さんも美希さんのことは一生残るということだ、同じじゃないか。

「でも、それは過去だ。人の記憶は都合良く出来ている。たいていの人は今が充実していたら過去を思い出さない。そして、それを思い出として仕舞い込む」

仕舞い込めない私の今は……充実していないと言うことだろうか?
釈然としない面持ちで黙っていると、湖陽さんは更に続けて言う。

「約束するよ。君の今を僕が充実あるものにしてあげる。だから、心を閉じずに僕を受け入れて」

――でも、と頭の警報機が赤く点滅する。