凪ぐ湖面のように

「彼女の幸せを考えて身を引いた、と綺麗事で自分を誤魔化した。でも、本当は怖かったんだ。決定的に振られるのが」

分かる気がする。言わなければ友達として側にいられる。

「でも、それは間違いだったと後々分かった。ちゃんと言葉にしたら良かったんだ。そしたら……」

湖陽さんの綺麗な顔が苦痛に歪む。

「後悔先に立たず……ですね」
「そうだね、思いを残しているとしたら……そのことだね」

ん……? それはどう言う意味だろう?

「美希と結ばれなかったのは、それが運命だったともう納得している」

「でもね」と湖陽さんは宙を見る。

「不完全なまま思いを残すと、それがしこりとなっていつまでもあるんだよ。ここに」

そう言って、彼はグーの手で自分の胸を二回叩いた。

「それが気持ち悪くてね、嫌なんだ。そして、それに気付く度に忘れようとして忘れられない自分がいることに気付く。こういうのを、拗らせていると言うのかな」

それは立派に拗らせていますと声を大にして言いたかったが、可哀想なので止めた。