「言っちゃったら、君が困るかも」

意地悪っぽい顔なのに、笑みを携えたその顔は見惚れるほど妖艶だった。

「じゃあ、言わなくていいです」

少しの動揺が黄色の点滅に代わり即答する。

「意外にヘタレなんだね」

ヘタレで結構。平穏な生活に敢えて困りごとを持ち込みたくないだけだ。

「聞いたら、困るんでしょう、私が……」
「たぶんね」
「だからいいです」

そっかぁ、と湖陽さんは少し残念そうに、少しホッとしたように、曖昧に笑んだ。

「湖陽さんも教えて下さい。人の恋バナばかり聞いて、ズルイです」
「――ねぇ、質問だけど、今の恋バナだったの?」

湖陽さんの質問に、「さぁ?」とクエッションマークで答える。

「そう言えば、恋バナってどういうのを言うのでしょうね?」
「呆れた! 岬さん、改めて聞くけど、君って作家だよね」

確かにそうだ、だから「YES」の意味で頷く。

「ジャンルはミステリー有りの恋愛小説だったね?」

確かに。

「なのに、恋バナを知らないって、詐欺に等しくない?」

言われてみれば、そんな恋愛小説家って……読者を愚弄している?

「だろう?」

念を押されたら、やっぱり頷くしかない。