凪ぐ湖面のように

冷めたコーヒーをコクンと一口飲む。

「だから私には夢見る未来はありません」
「だからこの地だったと? 条件に合ったこの地だと?」

湖陽さんが静かに訊ねる。

「ええ、そうです。ここなら心乱されることなく淡々と生きられると思ったから……」

ソーサーにカップを置くとそれをギュッと両手で握り締めた。

「――よく考えなくてもですが、私って結構、痛い奴ですね」
「その意見には、反論の余地がない」

自分で言っておきながらだが、肯定されると微妙に落ち込む。

「湖陽さんは痛くも痒くもない人生を歩んできたように思います」

「そうでもないよ」と複雑な笑みを浮かべる横顔。そこでハッと夕姫さんの言葉を思い出す。

そうだった。彼はご両親を亡くした時、夢を諦めたんだ。それは夢を葬ったということだ。私と同じだ……。

「ごめんなさい、知った風な口を利いて」
「素直だね。そういうとこ、嫌いじゃないよ」

ありがとうございます、となぜかへつらう私がいる。何かちょっと悔しい。