*


食事会は楽しかった。小町さんが言う通り、あの部屋からの眺めも最高に美しかった。

「でも、やっぱり私はここが好きだなぁ」

カウンター席で頬杖を付きながら、ボンヤリ窓の外を見遣り独り言ちる。

食後、仕事があるからと言う小町さんと別れ、私たちはドライブがてら湖岸道路を半周してカフェ・レイクに戻った。

「はい、どうぞ。ご苦労様でした」

白い湯気を上げるコーヒーカップがカウンターに置かれる。
いい香りだ。

「ありがとうございます。頂きます」
「で、何が好きだって?」
「えっ、ああ、どこよりもここの風景が好きだなぁと改めて思いまして」

湖陽さんは隣に腰を下ろすと、風景ねぇ、と呟くように言ってコーヒーを一口飲んだ。
その表情から何も読み取れなかったが、何と無く変だと思った。

それから私たちは無言で景色を眺め、コーヒーを啜った。
そして、刻々と微妙に変わる風景を感動と共に堪能していると――。

「岬さんはなぜこの街に来たの?」

前振りもなく湖陽さんがストレートに訊いてきた。
別段、隠している訳ではなかったのだが、話したくもなかったので言わずにいた。

「聞きたいですか」
「支障がないのなら」
「面白くないですよ」
「まさか、実は全国指名手配の逃亡犯とか?」

まさかですね、と笑ってコーヒーカップに口を付ける。