「あら、そちらの方は?」

小町さんと湖陽さんに続き、中に入るといきなり質問される。
当然だろう。見知らぬ人間が見合いの席にのこのこついてきたのだから。

だが、やはり娘の方は私の存在を知っていたようだ。顔色が変わる。

「彼女は岬さん。湖陽の恋人よ。お宅のお嬢さんも彼女の存在はご存知だそうよ。だから、今日のお見合いは中止。お食事会に切り替えたの」

いきなり小町さんペースで話がまとまってしてしまう。
恐るべし、マイペース。

「えっ、あっ、あの」

母親の方は目を白黒させ、娘と私を交互に見、娘の顔色から、それが事実だと察したのだろう。

「貴女は何を考えているの!」と怒りを露わにする。
意外にこのお母さんは常識ある人だったみたいだ。

「申し訳ございません! 今日はこれでお暇します。お支払いは済ませてありますので、ごゆるりとお過ごしになって下さいませ」

怒り心頭の母親は、「嫌だ、一緒に食べる!」と駄々をこねる娘を引っ張り、そそくさとその場を後にした。

まるで台風の目のような一瞬だった。

「と言うことだし、有り難く頂くとするか?」

まるでこうなることが分かっていたかのように湖陽さんはサッサと席に着く。