「嬉しいです! 一度でいいから、朝から晩まで誰にも気兼ねなく、この景色を堪能したいと思っていたんです。夢が叶いました」

「それはそれは……随分、夢のない夢ですね」

湖陽さんには分からないのだ、それがどれほど素晴らしいことか。

「嫌味は結構です。でも、ご招待は有り難くお受け致します」

ニッコリと笑みを返すと、当日は座布団とクッションを持参して、万全のコンディションで悦に浸ろうと画策する。





恋人ごっこが始まって約半年が過ぎた。早いのか遅いのか分からないが、ごっこはバレずに続いている。言いつけ通り、私からアクションを起こすことはないが……湖陽さんが――。

彼の作るお弁当は、回を重ねるごとに豪華になっている。スタッフでさえ生唾を飲み、羨むほどだ。近頃では、『愛されてますねぇ』とビックリするようなことを言われたりもする。何だかなぁ、だ。

もう一つ。ごっこを始めてすぐ、“ラバーシート”というリザーブ席が窓辺のカウンター席に登場した。

『この席は岬さん専用です』

ごっこのお礼だそうだ。お弁当だけでも十分なのに……と恐縮するものの、もう争奪戦に参加しなくていいんだと思ったら、心から協力して良かったと思えた。