「お兄ちゃんも人が悪い、どうしてすぐ言ってくれなかったの」
「お前が帰って来たのは昨日の深夜だろう」

湖陽さんと交代で、夕姫さんもこの一週間旅に出ていた。

「まっ、そうね。で、お式はいつ?」

ワクワクと瞳を輝かせる夕姫さん。

「式は来年かな、でも、籍は今週中に入れる。入れたらすぐ一緒に暮らす」

はい? 耳を疑うような台詞が飛び出てきた。

「本当、嬉しい! お父さんとお母さんが生きていた頃と同じように賑やかになるね」

追い討ちをかけるような夕姫さんの台詞に絶句する。
兄妹は私の思いなど蚊帳の外に和気藹々に会話を進める。

呆然と二人を見つめながら思う。
何て人たちに捕まってしまったんだろう……と。

「岬さん、私、妹が欲しかったの。早く赤ちゃん産んでね」
「よし、任せておけ」

湖陽さん……二人は恋をしてゆっくり愛を育てていくんじゃなかったんですか?

カフェ・レイクのカウンター席で私は異議を叫ぶが……全く聞く耳持たずの二人だ。

私の気持ちとは裏腹に、今日も湖の湖面は静かに凪いでいる。
ワイワイと賑やかな声を背中に、私の頬が徐々に上がっていく。

そう言いながらも……今、私はとても幸せだ。




凪ぐ湖面のように
~The End~