「なーんにも、どんな指輪を買ってもらおうっかなぁ」

はぐらかすように言うと、「湖面がキラキラ煌めいているような、あんなのを買おう」と湖陽さんが言う。

目の前に海があるのに、湖面とは……。
笑いが込み上げる。
二人の頭にあるのは、おそらくカフェ・レイクから見る湖。

今、とても帰りたくなった。あの場所に……。
湖陽さんのいる、湖が見えるあの癒しの空間に。

「湖陽さん、湖の姫に会いたくなりました」

脈絡もない突然の言葉だったが、意味が分かったのだろう、湖陽さんが微笑む。

「ああ、一緒に帰ろう」
「ええ、一緒に……」

優しい眼差しを見つめ返し、私も微笑む。

「岬、好きだよ。愛してる」

柔らかで穏やかな声が心を温かく包む。

「私も……」
「ん? 声が小さくて聞こえなかった。もう一度言って」

もう、とソッポを向くと、長く伸びた二つの影が目に映る。

ピッタリと寄り添う影が迷いなく前へ進んで行く。まるで見失っていた未来に進んで行くようだ。

「湖陽さん、本当にありがとう」
「今欲しいのは、その言葉じゃないんだけど」

不貞腐れる彼に笑み浮かび、言葉が溢れ出る。

「私も愛しています」