今、私の心は湖面のように凪いでいる。

「湖陽さん、ありがとうございます」

言葉が自然に溢れる。

「何が？」と湖陽さんは突然のお礼に戸惑う。

「なんかもう、いろいろです」
「何だそれ？」

クスッと笑い、湖陽さんは手を繋いだまま私を抱き寄せる。

「僕の方こそ、先にありがとうと言っておくね。いろいろ受け入れてくれて」

意味深に笑う湖陽さんが、内緒話をするように唇を寄せ囁く。
「なっ！」絶句する私を見つめ、「まるで茹でタコだね」と大笑いをする。

「もう、からかわないで下さい！」
「冗談じゃないよ」

悪戯っぽい瞳が熱を持ったように私を見つめる。

その瞳から逃れるように視線を外すと、遠くに大きな船がゆっくり地平線に向かって進んで行くのが見えた。

ボーっと汽笛の音に『船出』という単語が浮かぶ。
私たちの未来も、今ここからだ。

「何考えているんだい、そんな余裕の表情で？」

湖陽さんが私の顔を覗き込む。