「そうか、食べ物が美味しいと感じるのなら大丈夫だ。おお、そうだ。帰りにワシの作った野菜を持って帰れ」

有言実行とばかり、段ボール箱いっぱいの野菜を頂き、私は太田邸を後にした。
そして、帰宅後、それで大量のスープを作った。
自然の恵みいっぱいのスープを口に運ぶたびに、身も心も幸せいっぱいになる。

――私は海のことを過去にして、幸せになってもいいのだろうか……。
あの冷たいキスに誓ったはずなのに……湖陽さんとの熱いキスを思い出す。

――頭を掻き毟りたくなる。

どうしよう気付かないフリをしていたのに……好きなんだ、湖陽さんのことが……。

彼が『好きだ』と言ってくれた時、彼にキスされた時、本当は泣きたいほど嬉しかった。

でも……心にブレーキをかけ、その気持ちを必死に誤魔化してきた。なのに……一旦認めてしまうと気持ちが溢れる。

ダメだ。こんな中途半端な私は幸せになれない。湖陽さんにも迷惑を掛けてしまう。

どうすれば……と混乱する気持ちに、そうだ、と思いが浮かび、冷凍庫を開け、スープの入った大量のフリーザーバッグを眺める。

この恵のスープが全てなくなり、私の身がスープに満たされた時……その時、改めて考えよう、未来の私を……。

ウンと頷き決心すると、私は何かを祈るように目を瞑り冷凍庫を閉めた。