なんという物語だ。ハチャメチャもいいところだ。

「ということは、龍と湖の姫は、湖底で永遠に幸せになったとさ、めでたしめでたし、ということですか?」

「そういうことだろうね」と太田のおじいちゃんが笑う。

ハチャメチャだけど……清々しい。
湖の姫ってば、策士だ。でも、柔な女じゃなかったんだ。
幸せを自分の力で勝ち取るとは、なんてカッコイイ姫なんだ。

「悲恋じゃないじゃないですか!」
「まぁ、後付けの話があるからな」

でも、なぜ『名も無き湖』なのだろう、と思っていると……。

「湖の姫は湖に身を沈める時に言ったそうだ。身分も名前も捨て真っさらの身一つで龍の妻になると」

全てを捨て……私は過去の過ちを全て葬るためにここに来た。
やはりどこか似ている。

「だから、名も無き湖という名前なんですね」

「ああ、そうだ」と太田のおじいちゃんは頷き、「でもな」と少し遠くを見る。

「ワシは悲恋で終わって欲しかった」
「どうして?」
「父親のことを思うとな……」