「高城さんは今まで、一体何に頭を使ってたわけ?」
机に肘をつけ、本気で呆れた顔でそう訊いてきた。
別に意識した事はないけど、強いて言うなら“恋愛”に一番頭を使っていたかもしれない。
「ここは連体形だから“ける”が入るんだよ。……思っていた以上に問題だな」
と困り果てた様子で顔をしかめる。
「ごめん……」
「――別に構わない。俺がみっちりしごいてあげる。いいって言うまで、帰さないから」
そう言った彼の顔に、意地悪な笑みが浮かんだ。
「……っ、」
――まただ。
何故か分からないけど、この時折見せる顔に自分の意志に反して勝手にときめいてしまう。
「じゃあ、次はこの問題」
カリカリ、とシャーペンがノートの上を走る音。
篠宮くんは古文をノートに書き込む。
「あっ!これって確か徒然草!」
ノートにズラズラと並ぶ長文に、自信たっぷりに答えた自分だったが、彼はまたしても呆れた溜息を漏らした。
「……違う。清少納言の枕草子だから」
と。

