「兄貴は一度だって千咲さんに対して同情や憐れみなんか抱いたことはない」


そう言った彼の表情は真剣そのものだった。


「何でそんなこと、唯くんが分かるの?」

「一番近くで兄貴のことを見てきたんだ。それぐらい分かるに決まってるじゃないですか。 ……そういう風に千咲さんが感じてしまったのは多分、」


「多分?」

「昔っからずっと不器用な男だからな」

と今度は可笑しげに笑って見せた。


「兄貴が向日葵大好きなの知ってますか?」

「向日葵?」


私が2番目に好きな花が、篠宮環の一番好きな花?


「千咲さん達の学校の花壇に植えられたあの向日葵、実は兄貴が用務員のおじさんにあげた物なんですよ」

「えっ」

「もっと別の花の種をあげればいいのに、わざわざ邪魔になるような向日葵を何で兄貴はあの場所に咲かせたかったんでしょうね? ……っとちょっとお喋りが過ぎたかな」


唯くんはクスッと小さく花で笑うと、


「俺が言えるのはここまでです」


そう言って友達の輪の中へと戻っていってしまった。