「ちさぁー」


1時限目後の休み時間。

里乃とベランダで喋っていた時、教室の入口から大声で名前を呼ばれる。


「何?」

とベランダの窓から身を乗り出すと同時に、篠宮環がドア陰から姿を現した。


えっ、何で……


「篠宮くんが千咲に何の用があるのぉ?」


クラスの女子が不思議そうに私に視線を集める。


何で、と聞きたいのはこっちも同じだ。

前に私がアイツの教室に行った時、同じような雰囲気になってるの分かってるくせに――…


「先生から高城さんへの渡し物を預かってきたんだ」


ざわめく中、篠宮くんは手に持っていたファイルを顔の横に上げた。

すると「何だー」と女子が声を揃えて安堵の笑みを浮かべる。


……知らなかった。

アイツに好意を寄せる女子がうちのクラスにこんな居たなんて。



「ありがとう」


入口まで近寄り、預かり物だというそのファイルを受け取った。