翌日の午後…

この日は店の定休日で、千歳が店舗兼・住居の二階の部屋でくつろいでいると、一階から千歳を呼ぶ声がした。

「さつきちゃ〜ん、お客様よ〜花園君」

階段を下りて行くと、千歳の叔母と花園が玄関で楽しそうに話していた。

花園が千歳に気づくと、いつもの人懐っこい笑顔が向けられ、

「千歳、今日ヒマ?どっか行かない?」

と、これ以上ない極上の笑みで誘われ、断れるわけもなく千歳は大人しく花園の後に付いて行く…敗北者の気分はぬぐえない。

外へ出ると一台のジープが止まっていた。

「あれ?これ鳴海の車?」

「うん、そう、鳴海が貸してくれたんだ〜」

嬉しそうに花園はキーを差し込むと、エンジンをかけた。

外は良く晴れていて、絵に描いたような秋晴れだった。澄んだ空が高く見える。

「どこか行きたい所ある?」

「どこへでも…」

千歳は投げやりな口調で答えた。

車が走り出すと、少し開けた窓から木々の匂いと涼しい風が通り過ぎて行く。

この辺りは何の目的もなく走っていても十分に楽しめる街道で、花園は当てもなく走っているように見えたが、30分ぐらいするとある駐車場に車を止めた。

その間、二人は一言も口を聞かなかった。