榊さんが言っていた通り、午後社内の各部署を視察のために回ると軽いパニック状態になった。
意外に自分を覚えている人達が多く、ちょっと後悔したりもしたけど、とりあえずその日は無事終える事が出来た。

「榊さんにこんな事をさせてしまってすみません…まだ仕事が残っているのでしょう？」

社用で使っている車を運転してくれているのは榊さんだ。

「いいえ、車の運転は嫌いじゃないんですよ。それにまだ慣れなくて…こうしてる方が落ち着くんですよね」

楽しげなハンドルさばきで、夜の都内を走って行く。

「久しぶりの我が社は、いかがでしたか？」

「榊さんがとても良くやってくれているのが、すごく分かりました。若い世代も伸び伸び働いているようですし、活気があって良いと思います」

「そんな…私は周りに助けられてばかりですよ。それに活気は静時君のお陰です…最近社内の空気がよどんでいたので助かりました」

そんな話をしている内に、宿泊しているホテルの前に着いた。

「今日は本当にお疲れ様でした。滞在費等、経費で落としますので領収書を取っておいて下さい。それから明日は運転手を迎えに来させますので、９時にここでよろしいですか？」