女の子が眉間にシワをよせて険しい表情になった。一種の憑依現象じみていて怖い…

「なぜ止めなかった鳴海…いや、まだ…まだ大丈夫だ…鳴海がここからいなくなれば本来の軌道に戻るハズ…」

「ハズ…ですか…」

人の運命って存外いい加減に出来ているんだなぁと鳴海は思った。

「嫌だというならムリじいはしない…ただ、小学生の目から見ても鳴海がここにいる理由が、いまいち分からない…」

「え?」

「だって、いい大人が喫茶店でアルバイトってどーよって感じだし…」

「うわ~グサッとくるわ~」

「ここにとどまる理由が、たいしたものではないのなら…千歳の幸せのために協力して欲しい」

つい最近、同じようなセリフを聞いた気がする。

その時ドアベルの音がたて続けに鳴って、三組のお客が来店してきた。

「ごめん、さつきちゃん。話しの途中だけど仕事戻るね」

鳴海はエプロンをかけると仕事に戻った。 にわかに店内がにぎやかなる。鳴海が水を運びオーダーを取って一段落した所に、さつきがカウンターにコップとお皿を返しに来た。

「お姉ちゃん、ごちそうさまでした」

「いいえ~ありがとね」

作業をしながら、さつきがさつきに笑いかけた。

「じゃあ…お兄ちゃん、考えておいてね?」

まっすぐな瞳で鳴海を見上げると、こう言い残して帰って行った。

「…さっちゃん何の用だったの?」

「…内緒…」

「あ…っそ」

「告白ではなかったけどね…」

まぁある意味、告白だったけどね…

鳴海はこの日から、ここにいる理由を考えはじめる事になった。

(おわり)