「あれ?いらっしゃい、さっちゃん一人?」

夕方のお客が引けた時間帯に、生島さつきが訪れた。

「うん…」

こくりと小さくうなずく姿がかわいらしい。黒くまっすぐな髪が肩先にすべり落ちた。父親の趣味なのか、かわいらしい赤のワンピースが良く似合っている。

「お父さんと待ち合わせ?」

千歳は作業の手を止めて、今年小学三年生になった生島家の一人娘に声をかけた。父親はバイトで郵便配達の仕事をしていたり、本業で陶芸家なんかをしている。
無言で首を横にふると、カウンター席に座っていた鳴海の方を見つめて言った。

「…お兄ちゃん、今いい?」

気の強いまっすぐな瞳が鳴海の瞳をとらえる。

「え?自分?」

鳴海はその瞳を見つめ返すと、威圧さえ感じる視線に深刻なフンイキを感じとる。

「わぁ~ついに小学生にまで指名されるとは…モテモテですね鳴海さん」

千歳の茶化しは、いっこうに気にせず聞いた。

「15分ぐらい休憩もらってもいい?」

「どーぞ、何かいれようか?」

「ありがとう、じゃあコーヒーを」

「さっちゃんはジュースでいい?」

さつきは小さな声で、おかまいなくと言った。

そして小さな手で鳴海のブラウスのそでをつかむと、カウンターから死角になる奥の席に引っぱって行った。