「ハル、花園が来たよ。今、手あいてる?」

玄関を素通りして中庭へとまわり、縁側から深谷さんが家の中に声をかけた。
昔ながらの日本の家という感じで、開け放たれた障子の代わりに夏の名残りのすだれがかっていて、広い座敷の向こうからこの家の主が顔を出した。

「やあ、はじめまして花園君、ウワサは聞いてるよ~オレは生島晴彦、ハルって呼んでね」

家は主の人柄を現すというけど、確かにこの人は花のような人だった。男だけど…39才らしいけど…
奥の台所で梨を切っていたらしく、麦茶と一緒に持って来て、穏やかな笑みを自分に向けると一枚板の大きなテーブルにつくようにすすめた。

「今日は陶芸教室に来てくれたんだって?ラッキーだね花園君、今日の生徒さん君一人だけだよ、好きなだけやってってね」

ニコニコ笑う生島さんの周りから花が見えるのは、きっと錯覚に違いない…

「で、どうしたの花園…今日は彼女と過ごすって言ってなかった?」

深谷さんが核心をついた質問をしてきた。

「あーえっと、キャンセルしちゃいました…今日は千歳というか、鳴海に会いに…」

語尾がだんだん小さくなっているのが、自分でも分かる…