あてもなく歩いていると、バス停を見つけて木のベンチに座り込んだ。
どれだけ歩いたんだろう…鳴海が言っていた事を思い出し、深谷さんの所に電話をかけてみる。

「はい…あ、かその?え?こっちに来てるの?-いいけど…今から迎えに行くよ、今どこにいる?」

深谷さんは所属しているオーケストラの先輩で、自分より4つ上の31才…フルネームは深谷晃平さんで、生島さんと同居していて事情を説明すると、すぐに迎えに来てくれた。
見慣れた銀色のスマートな車が目の前に止まる。

「…花園、大丈夫?」

車から降りると、深谷さんはナゼかそう聞いてきた。

「え?はい…いえ、ちょっとやばいかな…」

「了解…乗って」

生島さんの家は、車で15分ほど行った所にあって、千歳の所よりももっと自然の中に建っていた。道の両側は並木道になっていて、よりそうように小川が流れている。

家の前の広い庭には、花・花・花が咲きみだれ、ススキが風にゆれていた。
その庭を眺めていると、深谷さんが主の趣味なんだ…と言った。

深谷さんがどういういきさつで、ここに住む事になったかは知らない。だって、あまり自分の事を話さない人だから…

偶然千歳と同じ地元だというので深谷さんが帰る時、一緒に車に乗せてもらった事が何度かあったけど、ここに来るのは初めてだった。