「そっかぁ」

「駅まで送ってもらうの?」

「うん、優しいよね鳴海って」

「花園にはね…」

「そう?やっぱそう思う?」

「…で、何しに来たんだっけ?」

全ての仕事が済んだ千歳が、やっと花園の方を向いた。

「あ〜昨日、帰れた?」

「おかげ様で…」

千歳は、やれやれという感じで苦笑した。

「あ〜えっと、返事を聞いてもいい…?」

「うん…でもその前に、お願いがあるんだけど」

「?何?」

「こっち向いて、目をつぶってくれる?」

「?…うん」

言われるままに花園は千歳の左の席に座ると、千歳の方を向いて目を閉じた。イスから立ち上がった千歳が右手を花園の方に伸ばす…

花園は左頬に温かい手の感触を感じて…それから唇に唇が微かに重なるのを感じると、千歳が静かに離れて行くのが分かった。

「…ドキドキした?」

千歳から質問が出される。

「…しなかった…」

目を開くと、すごく真剣な顔で花園は答えた。

「やっぱり…」

はぁと、大きなため息をついて千歳はカウンターに倒れ込んだ。

「いやむしろ、我が家の愛犬ごん太をほうふつとさせるような…」

勢いよく花園の頭が叩かれた。

「そこまでは聞いとらんわ!っていうか私、犬ですか?!」