「千歳、オレ明日の夜帰るから、答え用意しといてくれる?」

真剣な表情の花園が千歳の手をつかんだ。が、千歳はその手をあっさりふり払うと、もと来た道を下りはじめた。

「…帰る、先帰るわ、じゃあね花園。ここ電波来てないから!看板に書いてあったから!残念!!」

言いながら千歳は足早に坂道を下りて行ってしまった。花園は千歳を追う事はあきらめると、その場にしゃがみ込んだ。

「…だってこんな方法しか思いつかないんだよ、千歳…」



翌晩…花園は帰り支度を整えると、千歳がマスターをしている喫茶店を訪れた。

閉店のフダのかかった店は一部だけ灯りがついていて、千歳がカウンターのイスに座って売上伝票を書いている所だった。

もうすっかり閉店作業も終えた様子で、花園が中をのぞくと鳴海が店内にいない事に気づいた。

「あれ?鳴海は?帰っちゃった?」

ためらいがちに扉を開けると、後ろ姿の千歳にたずねた。

「鳴海ならガソリン入れに行ったよ。花園が来たらちょっと待っててだってさ」

作業の手は止めずに、鳴海からの伝言を伝える。